「なんとなく好き」は、どうやって曲になるのか。


「これ、なんとなく好き」
そう思う瞬間から、制作は始まることが多いです。
理由はまだ分かっていません。でも、確かに何かが引っかかっている。
説明できないまま、手を動かす
好きだと感じた瞬間に、なぜ好きなのかを考え始めると、たいてい手が止まります。
だから僕は、理由を探すより先に、その感覚のまま次の作業に進むようにしています。好きだと思った音の周りに、歌詞を置いてみる。テーマを重ねてみる。理由は、形にしていく過程で後からついてくることの方が多いです。
似ているようで、違うものを聴き分ける
一つの曲に対して、いくつもの候補を並べて聴き比べることがあります。
どれも似たような雰囲気なのに、なぜか一つだけ耳が離れない瞬間があります。その違いを言葉で説明しようとすると、意外とうまくいきません。でも、体は分かっている。理屈より先に、反応が出ているんだと思います。
好きの基準は、一貫して同じではない
面白いのは、この「なんとなく好き」が毎回同じ基準で発動するわけではないということです。
ある曲では声の距離感に反応し、別の曲ではコード進行の一箇所に反応する。基準がブレているように見えて、実は「その時々で一番心が動いた場所」を選んでいるだけなんだと思います。だから、ルール化しようとすると、逆にうまくいかなくなります。
迷ったときは、初めて聴いたときの感覚に戻る
何度も聴き返していると、だんだん判断基準が曖昧になってくることがあります。
そういうときは、一度作業から離れて、初めて聴いたときにどう感じたかを思い出すようにしています。最初の一瞬の反応には、後から積み重なった理屈が入り込んでいない分、案外正直な答えが残っていたりします。
歌詞は、「なんとなく」では選べない
ここまで書いてきた「なんとなく好き」は、メロディや曲調の話です。
歌詞は、少し事情が違います。
音は一瞬で好き嫌いが分かりますが、言葉はそうはいきません。一つの単語を選ぶだけで、曲全体の印象がまったく変わってしまう。だから歌詞に関しては、「なんとなく」で進めることはほとんどありません。
言葉は、意味を背負ってしまう
音にはない厄介さが、言葉にはあります。
同じような響きでも、違う漢字を当てれば意味が変わる。似た言葉でも、文脈によって重さが変わる。だから一つのフレーズを選ぶとき、僕は「音として気持ちいいか」だけでなく、「この言葉は何を背負ってしまうか」まで考えます。感覚だけで進めると、意図しない意味を持たせてしまうことがあるからです。
フックになる言葉だけは、直感で決める
とはいえ、歌詞の全部を理詰めで組み立てているわけではありません。
軸になる一つのフレーズ、いわゆるフックの言葉だけは、「なんとなく好き」に近い感覚で選んでいます。そこだけは理屈より先に降りてくる。そして、その一語が決まってから初めて、残りの言葉を理屈で肉付けしていく、という順番になっています。
感覚と理屈、両方が要る場所
メロディは感覚だけで進められても、歌詞はそうはいかない。
でも、歌詞のすべてを理屈だけで組み立てると、今度は冷たい言葉の羅列になってしまいます。だから僕の中では、フックになる一言は直感で、その周りの肉付けは理屈で、という役割分担ができています。感覚と理屈、その両方が必要な場所なんだと思います。
「なんとなく好き」は、最初はただの直感でしかありません。
でも、その直感だけで最後まで進められる部分と、直感を理屈で支えなければならない部分がある。歌詞は、まさにその両方がせめぎ合う場所なんだと思います。
次は、各アルバムごとに僕がどんな歌詞のこだわりを持って作ってきたのか、その話を書こうと思います。




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